心臓血管外科研究紹介②
心臓血管外科教室スタッフ、有本宗仁先生より研究紹介のコメントを頂きました。
【左心補助人工心臓が冠循環に及ぼす影響に関する実験的検討】
重症心不全に対しての外科的治療の一つとして機械的に左室の補助を行う左心補助人工心臓(left ventricular assist device; LVAD)治療がある。心臓移植までの待機期間はドナー数の不足から平均で3年を超え、移植待機期間は欧米と比較して長期に及ぶ為、増加する重症心不全に対する治療としてLVADの果たす役割は大きい。今後、機械的補助を必要とする重症心不全患者もさらなる増加が予測されるが、LVADの冠循環に与える影響は未だ解明されておらず、不明な点が多い。LVADを導入し、高流量補助を要した場合、自己心の拍動に対して定常流補助が冠動脈においてなんらかの悪影響を及ぼしているのではないかと推察される。冠動脈流量や弾性、血管抵抗に注目し、流体力学的手法を用いてLVADが冠循環および左心に与える影響を検討した。
ブタ10頭を用いて、補助率を自由に設定できるLVADを導入し、左冠動脈前下行枝流量、流量波形、上行大動脈流量、圧波形を計測し、また、左室圧測定を行った。左冠動脈前下行枝の平均流量は、LVADの補助率上昇に伴い有意に減少を認めた。また、冠動脈流量波形は、LVADの影響を受け、脈圧の低下、波形変化を認めた。平均大動脈圧、冠動脈抵抗、冠動脈末梢血管抵抗、冠動脈リアクタンス、左室圧もLVADによる左心補助の影響を認めた。定常流型LVADにより左心補助を行う際、全身に必要な血液を送り出すための大動脈圧を維持し、冠動脈流量を維持していると考えられた。また、LVADの補助率上昇に伴い、冠動脈血管抵抗、冠動脈末梢血管抵抗が減少し、低値で推移することから、定常流が冠動脈に有害とならずに自己制御能が働いて、必要な心筋酸素量を確保し自己心の冠動脈循環が調節されていると考えられた。
今回の研究では定常流型LVADにより高流量の左心補助が続いた場合でも冠動脈に有害とならないことが示唆された。
その他の研究紹介:
https://www.nu-cvs.jp/the-study/